著作物に関する権利"著作権"は誰しもが見落としやすいものです。それを学ぶ学生はもちろんのこと、それを教える教員も例外ではありません。
教育に関する"著作権侵害"のニュースを見てみましょう。
これを見る限り、学生だけではなく、教員や学校でも著作権を侵害してしまう可能性があります。
一方で著作権において、教育に関する例外項目があります。
ただ、それは教育の分野だから、著作権の侵害に当たらないと考えている人も多いです。
そうした考え方は下手をすると大変なことになりかねませんので、改めて確認をしていきましょう。
今回の内容を読む前に、有益な情報が3つございます!
ここだけはおさえたい!!
知っておきたい著作権の知識について
教員や学校関係者が見るべき著作物の注意点
著作権は利用者側よりも大事な視点がある
この記事は、"著作権法改正(令和5年5月17日施行)"までの内容を参考にまとめております。
著作物とは
著作物について、法律で以下のように定義されています。
著作物とは(著作権法 第2条 第1項)
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
法律のこういうあいまいな感じは慣れませんね。分かりづらいと思いますので、具体的に説明します。
つまり、著作物は「自分で工夫し、自分の考えや気持ちを言葉や文字、形、色、音楽の"かたち"で表現したもの」と言い換えることができます。
こうした視点では、著作物は芸術品と考えていいかもしれません。
ですので、そっくりそのままのものを創ることが難しい誰にもマネできないものと考えてください。
著作権とは
著作権とは、著作物を創作した者(=著作者)に与えられる権利で、自分が創作した著作物を無断でコピーされたり、インターネットで利用されない権利です。
著作権の発生条件は、著作物を創作した時点で自動的に発生します。一方で、その取得のために手続や申請は不要なのです(無方式主義)。
取得のために手続や申請が必要なのは、特許権などの産業財産権なので、著作権とは別物です。
他人が著作物を利用したい場合は、必ず許諾を得る必要があります。
そして、他人がその著作物を利用したいと言ってきたときは、条件をつけて利用を許可したり、利用を拒否したりできます(著作権の例外は除く)。
著作権の期限
著作権について定めている「著作権法」が改正されたことで著作権の期限の変更が出ているので、しっかりと確認をしていきましょう。
著作権の期限
日本では、「著作者の生存中と死後70年を経過するまで」が原則です。
"死後70年"には、しっかりとした目安があります。それは、著作者が死亡した日の翌年1月1日から70年後になります。
例えば、2023年9月7日に著作者が病気で亡くなったとすると、2024年1月1日から70年後の2093年12月31日まで著作権が保障されます。
ですので、2094年1月1日からは著作権の保護対象ではなくなります。
一方で、2018年の著作権法の改正前までは、著作者の生存中と死後50年を経過するまでが原則でした。
こうした法律の改正があったキッカケは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に日本が署名をしたことにあります。
改正の主旨は、文化庁が発表しているので参考にしてください。
パブリックドメインについて知ろう
パブリックドメインとは、著作権をはじめとする知的財産権(知的所有権)が発生していない状態です。つまり、誰でも利用できる状態のことです。
実は、著作権の保護期間である死後70年を過ぎてしまった場合、パブリックドメインとして著作権がフリーになります。
ただ、著作者の没後に著作者を否定したり、著作者の精神を侵すような改変、名誉を傷つける行為などを禁止しています。
著作権を侵害すると…
著作権を侵害するとどうなるのかを一部まとめたので、参考にしてみてください。
また著作権の侵害は、民事と刑事で対象になる可能性があります。
民事の場面では、侵害が過失(不注意など)による場合でも損害賠償責任が発生します。
一方で、刑事の場面では、過失の場合は罰則が科されず、故意で他人の著作権を侵害した場合のみ罰則の対象となります。
どのようにして権利の侵害がわかるのかというと、主に侵害された側からの親告(=訴えを起こす人から告訴する)がなければいけません。
これには問題があり、親告されなければ、警察は動けません。
例えば、侵害してるのは知ってるけど、色んな人に知ってもらいたいから使っていいと黙認してしまうケースではどうしようもありません。
一方で、著作権のカテゴリーによっては"非親告"になるものもあります。つまり、親告がなくとも警察などの捜査機関が動きやすくなるわけです。
・死後の人格的利益の保護侵害(第120条)
・技術的保護手段を回避する装置・プログラムの公衆譲渡等の罪(第120条の2第1号及び第2号)
・出所明示の義務違反(第122条)
・著作者名を偽る罪(第121条)
著作権には例外規定がある
「著作権に例外がある」と聞いた方も少なからずいると思いますが、改めてどういうものなかしっかりとみていきましょう。
例外規定とは
例外規定というのは、ある一定の範囲内であれば、著作物をコピーしたり、インターネットで利用するために著作権者の許諾が必要ないものです。
例外規定は28項目ありますが、学校や教育分野に関連するもののみ紹介します!
私的使用のための複製(第30条)
私的使用のための複製(第30条)
自分自身や家族、ごく親しい少人数の友人など限られた範囲内で使用することを目的とする場合、著作物を許可なく複製することができる。
私的利用とは
私的利用というのは、その名の通り、個人が個人的な目的で、商業的な利益を追求せずに著作物などを使用することを指します。
個人的な目的は、個人的な利用、楽しみ、研究などのために行う活動を指します。
・自分自身で楽しむために曲を聞く
・家庭内で写真を共有する
・録画したテレビ番組を自分あるいは家族と一緒に見る
・個人的な研究や学習のために資料を複製する など
「限られた範囲内」を詳しく
私的使用は「自分自身や家族、ごく親しい少人数の友人など限られた範囲」でなら、利用は可能です。
それでは、リアルだけではなく、SNSなどの非対面の場面はどうなのかについて例を挙げてみましょう。
❶は限られた範囲になっていません。理由は、Xは公、不特定多数に向けて発信しやすい媒体なので、アウトになる可能性があります。
❷はLINEのグループトークの性質上、公、不特定多数に向けて発信できる環境とは言いずらいです。また、"親友のみ"と「ごく親しい少人数の友人など限られた範囲」に該当するので、私的利用として認められる可能性があります。
この項目が学校や教育分野にどう関係しているか見てみましょう。
教材のコピー:
教師が授業で使用するために教科書や参考書から一部をコピーする場合。ただし、これが全校に配布されるような形になると、私的使用の範囲を超える可能性があります。
学生のノート:
学生が授業で習った内容を復習するために、教科書や配布資料を自分でコピーする場合。
友人同士の資料共有:
テスト勉強やプロジェクトで、友人と教科書やノートをコピーして共有する場合。
引用・転載(第32条)
引用・転載(第32条)
公表された著作物は、公正な慣行に合致する方法により、報道、批評、研究など引用の目的上正当な範囲内で行う場合には、許可なく引用して利用することができる。 国や地方公共団体等が国民や住民に周知させることを目的として発行した広報資料等は、転載禁止の表示がある場合を除き、説明の材料として許可なく新聞・雑誌その他の刊行物に転載することができる。
→公表された著作物は報道や研究で適正に利用するなら、引用可。
→国や地方の広報資料も特定条件下でなら、新聞などに無許可で転載可。
引用
引用は、書いた文章のなかで、どこまでが自分の考えで、どこまでが調べた範囲(他者の考え)なのかを明確に区別する必要があります。
他者の意見といっても、いつ誰がどこで言った意見なのかを明確にすることで、意見に説得力を持たせることができます。
・他人の著作物を引用する必然性があること(自分の著作物を引き立たせるには、他人の著作物が必要なんです!的な感じ)。
・かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
・自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(メインは自分の著作物、それを引き立たせるのが他人の著作物)。
引用の基準をもとに「平和について」の授業資料を作ってみました。
以上の資料について、解説します。
フォントを変えてみたり、字の大きさを変えるなど、「引用」と「自分の意見」の違いをしっかりと見せられています。
「平和について」のタイトルに沿って、その引用が必然性があるのかという点では、福沢諭吉の残した言葉から平和について考えさせる授業構成なら、必然性はバッチリだと考えます。
転載
一方で、転載は、著作権法第30条で、他人の著作物を個人的に楽しむためだけに複製や保存をすることは許容されています。
ただし、複製・保存した情報や動画像をSNS等で公開したり、無償であっても友人等にメールなどで配布する行為は「私的使用」の範囲を逸脱し、著作権侵害となる可能性があります。
この項目において、学校や教育分野での適切な扱い方を見てみましょう。
研究発表:
学生や教員が研究の成果を発表する際に、既存の研究や論文、記事を引用するケース。
学校新聞・ウェブサイト:
学校が発行する新聞やウェブサイトで、地方自治体などが発行した公式な広報資料を転載する場合。ただし、広報資料に「転載禁止」などの表示がある場合は許可が必要です。
授業内の議論:
特定のテーマについての授業内で、新聞記事や研究論文などから一部を引用して議論を行う場合。
学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達(第35条)
学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達(第35条)
教育を担任する者及び授業を受ける者は、授業の過程で利用するために、著作物を複製したり、公衆送信を行ったり、公の伝達をすることができる。 ただし、公衆送信(遠隔授業のための同時配信を除く)を行う場合には、教育機関の設置者は著作権者への補償金の支払いが必要。
→正当な利用目的がある場合、教員も生徒も授業内のみ利用可能。
→授業以外はNG。
→公衆送信(遠隔授業除く)は補償金の支払いが必要。
ケースを見てみよう
「正当な利用目的がある場合、教員も生徒も授業内のみ著作物利用が可能」というのは、どういうことか例に挙げます。
学校法人に所属する教員Aは、情報Ⅰの授業で「著作権」をテーマにした内容を扱いたいと考えています。
そうした中で、著作権の侵害をしたらどうなるかの場合をデ○ズニー社のこれまでミ○キーのデザインに関する裁判例を使って、生徒に説明したいと考えた。
だから、生徒にどんなデザインなのかをイメージしやすくするために、起訴されたデザインのミ○キーも利用したい。
そして、授業内で利用した。
この場合は「正当な利用目的がある」と判断される可能性があります。理由としては以下の点が考えられます。
理由1:
教員Aは「学校法人」に属する「教育を担任する者」であるから
理由2:
民間の塾は例外が適用されない!
判決例を見ても、学習塾は"営利企業"の要素が強いため、教育機関として認められていないです。ですので、著作物について、立ち回りがかなり気をつける必要があります。
一方で、これは学校や学習塾など関係なく、市販の問題集や教材をコピーするのは著作権を侵害することに繋がります。
市販の問題集やテキストなどは、個人が購入して使用することを目的として販売されています。
複製し利用することは、本来の購入を妨げることとなり利益を害する行為となります。ですので、生徒や講師は、各々購入しなければいけません。
以下も、個人が購入して使用することを目的として販売されています。
同様に参考書、ドリル、ワークブック、資料集、テストペーパー、白地図、教材として使われる楽譜などもその対象
どちらのケースも結構勘違いが起きるケースなので、しっかりと確認しましょう。
遠隔授業は著作物の許諾が必要なくなった!
これまで対面授業のみが著作権の例外対象でした。
しかしながら、これからの教育のICT化を進めようとする動きや新型コロナウィルスでオンライン教育の需要がますます高くなりました。
そうした遠隔授業等のニーズに対応するため、オンライン教育に取り組む教育界を後押しする制度「授業目的公衆送信補償金制度」が、令和2年4月28日施行されました。
この制度が施行されたことで、個別に著作者に許諾をすることなく、著作物を利用できることになったのです!
この項目において、学校や教育分野での適切な扱い方を見てみましょう。
授業資料のコピー:
教師がテキストブックや研究論文の一部をコピーして、授業で配布する場合。
プレゼンテーション:
学生が授業でのプレゼンテーションのために、インターネットで見つけた画像や記事を引用する場合。
教室内のオーディオビジュアル素材:
映画の一部や音楽を授業で教材として使用する場合。
遠隔授業:
教師が特定の授業を遠隔で提供するために、教材を公衆送信する場合。この場合は補償金の支払いは免除される。
教室内での生徒作品の発表:
生徒が創作した詩やエッセイ、絵などを授業内で発表する場合。生徒自身が著作権者である場合もありますが、授業の一環としての公の伝達は許される。
試験問題としての複製等(第36条)
試験問題としての複製等(第36条)
公表された著作物は、入学試験や採用試験などの問題として複製したり、公衆送信を行うことができる。ただし、営利目的のための利用の場合は、著作権者への補償金の支払いが必要。
→公表された著作物は、入学試験や採用試験などの問題として利用可能。
→営利目的の場合は、著作権者への補償金の支払いが必要。
この項目において、学校や教育分野での適切な扱い方を見てみましょう。
過去問の使用:
教師が過去の試験問題を複製して、模擬試験や練習問題として生徒に提供する場合。
教科書内の問題:
教科書や参考書にある問題を、試験問題としてそのまままたは一部改変して使用する場合。
研究論文や記事の問題化:
学術論文や新聞記事等から作成された問題を試験で使用する場合。
営利を目的としない上演・演奏・上映・口述等(第38条)
営利を目的としない上演・演奏・上映・口述等(第38条)
→聴衆から料金を受け取らない、かつ上演・演奏・口述等する者に報酬を支払わない場合のみ利用可能。
→口述は「著作物の中身を公衆に向け、口頭で話すこと」です。学校での読み聞かせは営利目的でなければセーフです。
文化祭などは特に要注意
文化祭は授業の一環(特別活動に該当)なので、先ほど紹介した「学校その他の教育機関における複製・公衆送信・公の伝達(第35条)」にあたります。
一方で、お金をもらわない・払わないをしたからといって油断はできません。しっかりと確認をする必要があります。
カテゴリー別にまとめましたので、参考にしてみてください。
音楽を利用したい!
演劇をしたい!
→Q3「文化祭等で、演劇の上演や音楽の演奏を行う場合、著作権者の許諾を得ておく必要がありますか。」で回答があります。
※ただ、著作物の実演を録音・録画し、その複製物を作成する場合や、自校のウェブサイト上で動画として配信する場合は、別途、複製権(21条)や公衆送信権(23条1項)に抵触するおそれがあるので、注意です。
作品を口頭でみんなに伝えたい!(読み聞かせ など)
この項目において、学校や教育分野での適切な扱い方を見てみましょう。
学校祭での映画上映:
学生たちが学校祭で無料で映画を上映する場合。
音楽の授業や合唱コンクール:
営利を目的とせず、観覧は無料で、参加する生徒や教員に報酬を払わない場合の音楽演奏。
朗読会:
学校で行われる詩や短編小説の朗読会で、教員や生徒が参加し、観衆から料金を取らない場合。
演劇:
学校の演劇部が学内または学外で非営利で演劇を上演する場合。
教材としての利用:
教育目的で、教員が授業中にビデオクリップや音楽を使って説明する場合。
例外規定の詳細をみよう
例外規定をしっかりと確認したいという方は、文化庁の「著作者の権利の制限(許諾を得ずに利用できる場合)」で事例込みで説明が書いてあるので、参考にしてください。
著作権もケースバイケースのことが多いので、とり返しがつかないことになる前に確認をすることが大切です。
なぜ著作権に例外規定があるのか
文化庁がこのことについて、説明をしています。
いかなる場合であっても,著作物等を利用しようとするたびごとに,著作権者等の許諾を受け,必要であれば使用料を支払わなければならないとすると,文化的所産である著作物等の公正で円滑な利用が妨げられ,かえって文化の発展に寄与することを目的とする著作権制度の趣旨に反することにもなりかねないため
つまり、著作権者から毎回許諾と使用料を払わなければいけない状況が、かえって著作権の目的である文化の発展を妨げるかもしれないのです。
では、なぜ権利を制限することが、文化を発展させることに繋がるのか。
文化の発展というものは、これまでにない新しい著作物をゼロから生み出した場合にのみ起こるわけではありません。
過去の著作物から学んだり、利用したりすることで発展していくこともあります。
そのため、著作権を厳重に保護してしまうと、過去の著作物から学んだり、著作物を利用したりすることを難しくしてしまうことが考えられます。
そうした結果、文化の発展をかえって停滞させる要因につながってしまうということなのです。
一方で、例外規定はあくまでも、著作権者と利用者との信頼関係があるからこそのルールだと思ってください。
つまり、著作権の目的がしっかりと果たされるように、例外規定というのはあるのです。そこには著作物を使って、著作者の名誉を傷つけたりしないことなども信頼関係には含まれています。
例外規定を誤解する人が多い
例外規定というのは、著作物をコピーしたり、インターネットで利用するために、著作者の許諾が必要ないルールなのです。
「例外規定=著作権フリー」になったと勘違いしている人がいますが、著作権は著作権者が放棄しない限り、存在します。
ですので、例外規定から逸脱した著作物の使い方をすれば、アウトです。そうした部分にも気をつけて、教材づくりや指導を行っていきましょう。
創作者目線も忘れてはいけない
今は、一億総クリエイター時代です。
インターネットが普及し、企業だけではなく、個人でも作品や動画を発信できるようになりましたので、誰でも創作者(著作者)になれてしまう時代なのです。
著作権は高校の科目である情報Ⅰでも扱われますが、やはりまだ利用者側の視点でしか、指導していないところが多いです。
今の時代に適した指導をするのであれば、クリエイター目線も忘れてはいけません。
最後に
今回は、教育者向けに発信する内容でした。例外規定で図書館についてもあったのですが、今はネットでものを調べることが主流なので外しました。
著作権は利用する側もそうですが、著作物を創る側も意識したいものです。この記事を再度確認するという意味もこめて、参考になれればと思います。