みなさん、教員免許状の更新制度が廃止されているのはご存じでしょうか。
実は、教員免許に更新制度があったのは過去の話!いまや生涯有効な免許になったのです。
では、その教員免許更新制度とはいったいどんなものだったのか。それを今回はご紹介いたします。
今回の記事では、以下の内容をご紹介します。
- 約13年間実施された教員免許更新制度とは?
- 免許を更新しなかったらどうなるのか
- なぜ廃止にいたったのか
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- 教員免許の更新制度をくわしく
- 教員免許状の更新制度とは
- 更新制度の対象範囲は?
- 更新制度の内容とは
- 更新しなかったらどうなるのか
- [補足]失効したら大学で教職課程の単位をとりなおすのか
- 制度の見直しはいつ始まったのか
- なぜ更新制度を廃止することになったのか
- 更新講習の受講料や受講時間確保は『個人負担』
- 更新講習の対象者が狭く限定されていた
- 後から教職に就くことを希望するとコストがかかる
- 介護、育児、ボランティア等従事者を排除
- 最後に
教員免許の更新制度をくわしく
教員免許状の更新制度とは
教育職員の免許状を一定の期間ごとに更新し、免許状の効力を維持させる制度です。イメージとしては、定期的にある運転免許状の更新と似ています。
この制度は、2007年6月の改正教育職員免許法の成立により、2009年4月1日から導入されました。2009年4月1日以降に免許状を取得した場合、10年間の有効期限を与えられていました。
もちろん、それ以前に付与された免許状の所持者に対しても、更新制の基本的な枠組みが適用されていました。
目的は以下の通りです。
その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものです。
※ 不適格教員の排除を目的としたものではありません。
制度導入前は、教育現場における「不適格教員の排除」をメインにしていましたが、方針を変え、『教員の能力向上』になったのも目的からうかがえます。
更新制度の対象範囲は?
教員、採用内定者のほかに、過去に教員として経験がある者、臨時任用(または非常勤)教員リスト登載者などが対象者になります。
ただし、過去に教員経験がなく、また教員になる予定もない方は、免許状を持っていても受講することができませんでした。
新講習の受講対象者(講習を受講できる者)は、普通免許状(専修免許状、一種免許状、二種免許状)又は特別免許状を有する者で、以下に該当する者です。
(1)現職教員(校長、副校長、教頭を含む。指導改善研修中*の者は除く)
(3)教育長、指導主事、社会教育主事、その他教育委員会において学校教育又は社会教育に関する指導等を行う者
(4)(3)に準ずる者として免許管理者が定める者
(6)上記に掲げる者のほか、文部科学大臣が別に定める者
*指導改善研修は、指導が不適切と認定された教員に対して行われる職務研修です。
今後教員になる可能性が高い者として、以下の者も更新講習を受講することができました。
(7)教員採用内定者
(8)教育委員会や学校法人などが作成した臨時任用(または非常勤)教員リストに登載されている者
(9)過去に教員として勤務した経験のある者
(10)認定こども園で勤務する保育士
(11)認可保育所で勤務する保育士
(12)幼稚園を設置する者が設置する認可外保育施設で勤務している保育士
旧免許状所持者の受講対象者のうち、(1)(3)(4)(6)については受講義務者(更新講習の受講義務がある者)に該当しました。
2009年4月1日以降に、初めて授与された免許状を「新免許状」と呼び、それ以前に付与された「旧免許状」と呼びます。
以上を見ている限り、何かやらかしている方や特定の状況にある方以外は全員受講できるということがわかります。
参考文献:文部科学省「【1】受講対象者について」
更新制度の内容とは
有効期間を更新するためには、2年間で30時間以上の免許状更新講習の受講・修了をする必要がありました。
免許状の更新に関する講習は、以下のように定められていました。
- 「必修領域」・・・6時間以上
- 「選択必修領域」・・・6時間以上
- 「選択領域」・・・18時間以上
必修領域の講習は全員共有の内容で、選択必修領域を所有している免許状の種類や勤務する学校の種類などによって所定の内容が決められています。
選択領域では教諭・養護教諭・栄養教諭に応じた「対象職種」を学びます。
更新しなかったらどうなるのか
まずは更新制度があった際に、教員免許の更新をしなかった場合は以下のような扱いになります。
ほとんどの場合は『失効』になりますが、教壇に立つことなく旧免許状を所持しているものは「休眠」という扱いになります。
どちらも教壇に立てないのは共通ですが
休眠の場合、教員免許を必要とする職業に就く際に更新講習を受講・修了すれば、免許を回復することができました。
[補足]失効したら大学で教職課程の単位をとりなおすのか
免許状が失効した場合でも、免許状を取得した際に授与の基礎となった教職課程の単位までは無効になりません。
免許状授与のための所要資格を満たしていれば
30時間以上の更新講習を受講・修了後に、都道府県教育委員会へ免許状授与に必要な書類を添えて免許状の授与を申請することで新たな免許状が授与できます。
なお、旧免許状が失効した場合、新たに授与される免許状は有効期間の付された新免許状となります。
制度の見直しはいつ始まったのか
教員志願者の減少といった実態等を受け、2021年3月に中央教育審議会(中教審)に対し、当時の文部科学大臣が教員免許の更新制の「抜本的見直し」を諮問(しもん)しました。
これがキッカケかは分かりませんが
その1年後、2022年4月12日の衆議院本会議で、教員免許更新制を廃止と同時に、2023年4月から新たな研修制度を設ける法律の改正案が賛成多数で可決されました。
そして、2022年7月1日で教員免許更新制が廃止され
それ以降に有効期限を迎える教員については講習を受講したり免許の更新をしたりする必要がなくなりました。
更新制度の廃止による影響については下の記事をご参考ください↓
なぜ更新制度を廃止することになったのか
たしかに、教員志願者の減少といった実態もその一つの理由です。それ以外にも理由をいくつかまとめましたので、確認してみましょう。
更新講習の受講料や受講時間確保は『個人負担』
現職の教員は、更新講習が義務化いましたが、その講習にかかる費用や時間の確保等は、受講者個人の負担となっていたのが現状でした。
部活などでそもそも講習の時間を確保できなかったり、勘違いなどで期限までに更新手続きが完了せず、免許が失効してしまうケースがあったのは想像できます。
こうした状況は教員が教壇にたてないこともそうですが、その場にいる児童や生徒にも影響を与えかねません。
更新講習の対象者が狭く限定されていた
免許の更新講習は受講資格があり、免許法第9条の3第3項は、 教育職員に任命され、または雇用されることとなっている者、これに準ずるものについて、更新講習を受講できることと定めています。
しかし、文部科学省令はこの法律を排他的、かつ、具体的限定したものに定め、現に教職員である者以外で、受講資格のある者を3項目のみにしたという運営上の問題がありました。
後から教職に就くことを希望するとコストがかかる
新免許状では有効期間が明記されているため、更新講習を受講しないまま期間を過ぎると失効することになっていました。
そのため、失効後に免許が必要になる場合は、再度、免許の申請とともに更新講習を受講する必要があり、コストや手続きが多くなり、教壇に立てるまでにかなりの時間が必要だったのです。
介護、育児、ボランティア等従事者を排除
校種のなかには教員免許状取得時に、介護体験の義務化があります。
教育職員として介護やボランティア体験等の必要性が制度化されているにもかかわらず、介護、育児、ボランティア等の貴重な実践者に対応できる規定がないという矛盾がありました。
介護、育児、ボランティア(青年海外協力隊等の国際貢献も含む)等に従事し社会的、国際的な責任を果たしている者でも更新講習の受講資格が無く新免許状の有効期間が過ぎると免許が失効するため、再度、免許申請が必要となり、コストと時間がかかっていました。
つまり、これらをまとめると
廃止の背景には免許更新者への金銭的・時間的な負担、柔軟性に欠ける手続き、更新講習の排他性など、ずさんな制度設計と運用上の欠陥があったことが言えます。
最後に
いまはなき教員免許更新制度ですが、実は新しい動きがあります。
2023年4月1日から新たな研修体制を設け、教育委員会に対して、校長や教員ごとに研修記録作成の義務付けと、記録に基づき指導や助言などを行っていく方向に進んでいます。
カタチは変化していきますが新たな問題が起きないよう祈るばかりです。